夕暮れ時のことでした。千鳥川の岸に立つ大きなカツラの木の枝に、ひとりの女の子が腰かけていました。何があったのか唇を噛んで、真っ赤な眼で川を睨んでいます。女の子の名前はとお子ちゃん…。
何人かの子供が夢中になって遊んでいると、いつの間にかひとりかふたり、仲間が増えていることがあります。後でちょっと覚えのいい子が「あれ?」っと思ったりします。そうして他のお友達に、「あの時こんな子見なかった?」なんて聞いてみたりして。すると、「え? そうだっけ?」とか、「そう言えばそうかも…。」とかいう答えが返って来ます。でも、はっきりしたことは分からない。
こういう子供のことを、座敷わらしと呼んだりします。
とお子ちゃんも、そんな子供のひとりでした。
普通の子供もそうですが、座敷わらしにも色々います。おっとりしていてやさしい子。やんちゃでいたずらの好きな子。ときどき屁理屈をこねたりする子。へそ曲がりでちょっと意地悪なところのある子。とお子ちゃんは結構このタイプでした。
今日とお子ちゃんは、たまたま近くにいたゆみちゃんのおもちゃを、滅茶苦茶に壊してしまいました。どうしてだったか良く覚えていません。途中まで普通に遊んでいたのですが、突然腹が立ったのです。
ゆみちゃんははじめ、ぼぅっとしていました。だからとお子ちゃんは、「なんだ、怒ってないじゃない。」と思いました。けれど暫く経ってから、ゆみちゃんは目をつりあげて、髪を振り乱して怒り出しました。
「なんてことするの!?謝りなさいよ!」
「せめて、どうしてか言ったら!?」
「ふんだ!」
とお子ちゃんはつぶやきます。風が来て、山がざわざわ鳴りました。
「あたぃには、はじめっから、あんなものないんだぃ!」
千鳥山の林道沿いのヤマウルシの葉がゆれています。
(あぁ…。お腹がすいた。)
もう、要らないはずなのに…。
千鳥山と椿山の間にのぞく、遠い山並を覆う雲が、ここ何年かで特別綺麗なキイチゴ色に染まっていました。