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雪女の雪絵さんのお話

雪絵さんは千鳥台一の進学校に通う雪女さんです。

本人は完璧に人間に化けているつもりなのですが、ちょっと抜けてる人なので、 実は彼方此方ボロが出ていてかなり変です。

例えばいつも素足、いつも冬服…。 体育の時も、決して着替えているところを人に見せません。そんな時はいつも、 彼女が副部長さんをしている理科部の部室にひとりでそぅっと入って行き、 一瞬後には体操着になって出て来ます。勿論、体操着も冬服。

多分、雪絵さんには雪絵さんの事情があるのでしょう。初めはちょっと怪しまれ たりしたのですが、最近は皆慣れたみたいです。

放課後にはいつも理科部の部室で好きな生物の本を読んだり、遠くの研究室のホ ームページを覗いたり、仲間と数学の問題を解きっこしたりしています。

山で雪女の仕事をしている時以外は、雪絵さんは笑顔を絶やしません。うっかり 怒ると吹雪になっちゃったりして、後が大変なのです。そんな雪絵さんです が、本当は街中では、特に夏には、立っているだけで結構疲れてしまいます。

あんまり暑くて頭の芯から身体が溶けて行きそうなときには、秘かに心細くなっ て、山の姐さんたちのことを思い出します。

冬の入口、北風が吹くと、雪絵さんは雪雲に乗りたくて乗りたくて、飛んで行き たくなったりします。

でも雪女だって高校位出てみたいし、何より今まで暮らして来た千鳥台の街や そこで出会った人々を、もう少し見ていたい気もするのです。

「全部、一度には無理さ。」雪絵さんの気持ちを知ってか知らずか、一緒に暮ら しているやまいぬの妖怪ふぶきが、ぽつりとつぶやいたりします。雪絵さんは 「それもそうね。」と言って、期末試験の準備をします。


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