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いるかのたうりとるふりのお話

千鳥台の少し郊外に、岩だらけで夜は人が滅多に来ない小さな入江があります。その入江の入口近くには毎晩飽きもせず星を眺めている一頭のいるかがいます。名前をたうりという男の子です。

いるかの仲間は普通、目はそんなに良くありません。たうりはその辺がちょっと変わっていて、オリオン座の縦三星まで自分の目でちゃんと見ることができます。身体の色も変わっています。尻尾の脇にうっすら黄色い帯が入っている以外は真っ白です。でもシロイルカではありません。多分カマイルカの仲間なのでしょうが、いわゆる突然変異で生まれて来ました。

この入江には良く目立つ変わった形の大きな岩があって、たうりはその岩を目印にして、毎夜同じ場所から星を見ています。ここで星の観察をするようになる前のことは誰も知りません。たうりが誰にも話さないからです。別に隠している訳ではありません。単に無口なのです。

そんなたうりにも一頭友達がいます。るふりと言う、ずっと南からひとりで旅して来た、沿岸型ハンドウイルカの女の子です。彼女も他のいるかとちょっと変わっています。たうりほどではないけれど目も随分遠くまで見えるので、時々たうりと一緒に星を見ることもあります。唄が好きで、いつも細い声で唄を唄っています。

たうりが星を見ている時には、るふりはなるべく静かにしています。たくさん話しかけたり一緒に泳いだりするのは、曇っている時や夜が明けて星が見えなくなってからです。

初めて会った時もたうりは星をじっと見ていました。るふりが挨拶をしても、暫くは気がつかずに黙っていました。だからるふりには分かったのです。
「きっと、何かすごく大事なことしてるんだ…。」
彼女は彼女で何やら計画があって、そのために遠くからひとりで旅をして来ました。 ぽゃんとした優しい顔をしていますが、るふりは実はなかなかの冒険家です。今でも時々たうりにお留守のご挨拶をして、ひとりで遠くへ出掛けて行きます。そしてどんなに長く離れていても、無事にまた会えると、ふたりはどちらからともなくにっこりして「やぁ」とか「こんにちは」とか言うのです。


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